令和元年度から必須科目Ⅰ及び選択科目Ⅲの設問(3)で多く目にする、「解決策に共通して生じうるリスク及びそれへの対策を述べよ。」という問いに苦労する方が多いのではないでしょうか?
そこで、令和2年度建設部門必須科目Ⅰを例にとって解説してみたいと思います。
令和2年度 必須科目Ⅰ-2 設問
わが国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速度的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。
こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)社会・経済情勢が変化する中、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
(1)の解答例(骨子程度)
(1)の設問に対しては、多面的な観点からとあるので、基本的には「ヒト・モノ・カネ」の観点から課題を抽出しましょう。さらにもう1つプラスαの観点から課題を抽出できると高得点が期待できます。
※注意事項:平成24年度までの必須科目Ⅰで一般的であった「はじめに」は不要です。「はじめに」に記載することはすでに問題文に書かれています。
【解答例】
課題①(ヒトの観点):人口減少・超高齢社会により、メンテナンスに従事する技術者が減少 など
課題②(モノの観点):インフラの一斉老朽化 点検データ等の不十分管理 など
課題③(カネの観点):維持管理が必要なインフラが増加する一方、財源不足により予算が減少 など
課題④(プラスαの観点):災害の激甚化 地方の衰退 など
(2)の解答例(骨子程度)
(2)の設問では、最重要課題の抽出とそれへの解決策を求められますが、最重要課題選定の理由を記述しない方が多いような気がします。理由を記載しないと論理的に説明することが難しいと思いますので、必ず選定理由を示すようにしてください。
また、この時点で共通するリスクを意識した解答が重要です。これについては後で解説します。
【解答例】
最重要課題:課題①:技術者不足
理由:人口減少・超高齢社会は避けようがない
技術者不足を補う解決策はやはり新技術の活用による省人化ですよね。共通するリスクを意識して複数の解決策を提案します。複数ですの2つでは少ないでしょうし、4つ書くとそれぞれの内容が薄くなりますので、3つがいいのではないかと思います。
解決策①:新技術の開発(ロボット、UAV、画像処理技術、AI診断)など
解決策②:新技術導入のための基準見直し(仕様規定から性能規定へ)など
解決策③:新技術導入のための環境整備(国からの補助、仕様書に規定)など
解決策に共通して生じうるリスクの書き方
当然ですがここで重要なことは、解決策に共通しているということです。解決策それぞれに対して個別のリスクを抽出して、素晴らしい実効策を提示したとしても高得点はあり得ないと思います。題意に沿っていませんから。
また、解決策に共通するリスクを難しく考えすぎないことも重要です。難しいリスクはたいていの場合共通しません。ですので、(1)の課題抽出と同じく「ヒト・モノ・カネ」の観点からリスクを考えましょう。
【共通するリスクの抽出】
今回の解答例で提案する解決策①②③は簡単に言うとすべて新技術の活用です。これは、共通するリスクを意識して提案しているため、あえて狭い視点で解決策を提案しています。共通するリスクから逆に解決策を導いていると言っても過言ではありません。ここで重要なのは、狭い視点で記載する代わりに解決策の内容は深く濃く記載することが重要です。ただの技術力が低い人と思われる可能性があります。
では、最後に共通するリスクを考えます。すでに解決策が新技術の活用と一括りにできますから、ただ新技術の活用のリスクを考えるだけでいいのです。新技術の活用のリスクを「ヒト・モノ・カネ」の観点から考えると、
リスク①(ヒトの観点):ロボットやAI診断により、省人化することで、従来の技術力が継承されない など
リスク②(モノの観点):点検とは別の知識・経験が必要 など
リスク③(カネの観点):新技術の導入は初期コストが高い など
どうでしょうか?簡単に共通するリスクが見つかりませんか?私の場合はこのような方法で、必須科目Ⅰ及び選択科目Ⅲの共通するリスクを論述しています。また、共通するリスクは1つで十分です。その代わりにリスク対策の文章量を増やすのがいいでしょう。
【悪い?例】
共通するリスクを意識しないで解決策を提案してみます。最重要課題は技術者不足ですから、考えられる解決策を広い視点から提案すると、
解決策①:新技術の活用
解決策②:外国人技術者の採用
解決策③:維持管理する橋梁の選択と集中
このような感じでしょうか?
どうですか?共通するリスクが抽出できますか?少なくとも私では共通するリスクは思い浮かびません。
まとめ
今回の記事はあくまで私の考えです。これが正解かどうかは誰にもわかりませんし、解決策の視野が狭すぎると捉えられる恐れもあります。「このような考え方もあるのだな」と少しでも誰かのためになればと思います。
また、この記事はあくまで論文を書く際のテクニックを紹介しています。