【過去問解答例】R3道路必須Ⅰ-2(流域治水)

問題 Ⅰ-2

 近年、災害が激甚化・頻発化し、特に、梅雨や台風時期の風水害(降雨、強風、高潮・波浪による災害)が毎年のように発生しており、全国各地の陸海域で、土木施設、交通施設や住民の生活基盤に甚大な被害をもたらしている。こうした状況の下、国民の命と暮らし、経済活動を守るためには、これまで以上に、新たな取組を加えた幅広い対策を行うことが急務となっている。
(1)災害が激甚化・頻発化する中で、風水害による被害を、新たな取り組みを加えた幅広い対策により防止又は軽減するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。

解答例

(1)災害の激甚化・頻発化に対する課題
①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策
 現在の河川整備計画は、過去の降雨実績に基づき策定されるため、想定を超える短時間強雨には対応できず、全国各地で氾濫が発生している。また、利水ダムの不十分な事前放流等、関係者の連携不足も氾濫の原因として挙げられる。そのため、「氾濫を防ぐ・減らす観点」から、気候変動を踏まえた整備計画、利水者の協力による事前放流等の推進が課題である。
②被害対象を減少させるための対策
 我が国の国土構造は、その約7割が山岳地帯であり、少ない平地に人口・財産が集中している。また、都市部においては、郊外地のベッドタウン化により、山林を切り開く宅地造成等が行われている。そのため、「被害対象を減少させる観点」から、洪水ハザードエリアや災害レッドゾーン等の土地利用規制により、開発行為や居住地の適正化が課題である。
③被害の軽減・早期復旧・復興のための対策
 近年の豪雨災害では、被災リスクの把握不足や、高齢者等の災害弱者の逃げ遅れにより、多くの人命が失われている。また、復興事前準備不足による長期の経済停滞等、被災後の復興まちづくりの遅れが生じている。そのため、「被害の軽減・早期復旧・復興の観点」から、ソフト対策、事前復興計画の推進が課題である。
(2)最重要課題とその解決策
 ハード整備による防災対策には限界があるため、人命保護、被災後の経済成長に直結する③被害の軽減・早期復旧・復興のための対策が最も重要な課題である。
①誰もがわかりやすい災害リスク情報の提供
 災害リスク情報を視覚的にわかりやすく発信するため、ハザードエリアのGIS化を行い、3D地形図に重ねて表示する。これにより、浸水しない建物位置や、浸水高さ、避難ルート等を、直感的・空間的・具体的にイメージすることが可能となる。
②マイタイムラインの普及
 被災時の自分自身がとる標準的な防災行動を時系列的に整理し、自ら命を守る避難行動をするためのマイタイムラインを普及する必要がある。そのため、各自治体において、ワークショップ開催や、マイタイムライン作成ガイドの公表を行う。また、それぞれの自治体の連携を強化するため、事例の共有等が重要である。
③事前復興計画の策定
 事前復興計画策定のため、国土交通データプラットフォーム等を利用した、デジタルツインでの被災シミュレーションを行う。この結果に基づき、仮設住宅の設置予定箇所の選定や、復興まちづくりの実施体制の整備等を行う。これには、あらゆる関係者の協働により、総合的かつ幅広い視点から計画を策定することが重要である。
(3)新たに生じうるリスクとその対応策
 被災時の避難行動や、被災後の復興等に重要な緊急輸送道路等の道路ネットワークの寸断がリスクとして挙げられる。
 そのため、リダンダンシーの確保された、レジリエントな道路ネットワークを構築する必要がある。具体的には、リダンダンシー確保のため、緊急輸送道路と広域迂回路の整備によるダブルネットワーク化を実施する。また、被災リスクの高い箇所への重点的な対策や、被災後の早期復旧のため、TEC-FORCE等の支援団体の拡充・強化を図る必要がある。
(4)業務として遂行する際の要件・留意点
①技術者としての倫理の観点
 業務遂行にあたり、公益確保を最優先とした技術的判断、倫理的判断を下すことが技術者に必要な要件となる。日々進歩するプラットフォーム化やシミュレーション技術等の新技術に遅れることないよう、自身の継続研鑽に努める必要がある。
②社会の持続性の観点
 業務遂行にあたり、次世代にわたる社会の持続性確保に努めることが技術者に必要な要件となる。激甚化・頻発化する災害に対し、持続可能なまちづくりに貢献するため、次世代の担い手確保や技術継承、環境保全に努める必要がある。
                    ―以上―

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