問題 令和4年度 建設部門(道路)Ⅲ-2
我が国の高速道路は、供用からの経過年数が30年以上の区間が半分を超え、老朽化が進展している。こうした中、平成24年の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故を受け、平成26年度以降、定期点検結果に基づく修繕や更新事業を進めながら、2巡目の定期点検を実施しているところであり、これらの取組を通じて新たな知見も得られている。
このような状況を踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)高速道路を取り巻く国土・経済社会の現状等を踏まえ、その機能を将来にわたり維持するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
解答例
(1)高速道路の機能維持に向けた課題
①更新事業を含めた維持管理
省令点検2巡目を迎えた高速道路においては、1巡目以上に構造物の経年劣化が進行していることが判明している。特に建設年次の古いものについては、適切な劣化対策がなされていないため、床版取替等の抜本的な対策が求められる。したがって、高速道路の耐久性向上の観点から、更新事業を含めた維持管理が課題である。
②激甚化する自然災害への対応
近年、地球温暖化の影響による局所的短時間豪雨の発生など、自然災害が激甚化・頻発化している。高速道路は、物流等を支える通行機能、地域の経済・生活の復旧支援など、災害時の役割は非常に大きい。したがって、災害時の機能確保の観点から、4車線化や法面強化等の激甚化する自然災害への対応が課題である。
③効率的な道路管理システムの構築
近年、週休二日制導入等による労務費高騰や交通量の増大による高速道路の管理コスト上昇が問題となっている。また、道路管理体制強化、きめ細やかな情報提供等を目的とした施設設備が増加しており、それらを永続的に運用するためには、継続的な更新費用が必要である。したがって、管理コストの低減の観点から、xRoadの実現等、効率的な道路管理システムの構築が課題である。
(2)最重要課題と解決策
高速道路の耐久性向上は、災害時の機能確保、管理コストの低減にも寄与するものであるため、(1)①更新事業を含めた維持管理が最重要課題である。
①高耐久性に配慮した構造への更新
経過年数が長く劣化因子が存在する施設においては、対症療法的な補修を繰り返しても十分な予防保全には至らない。そのため、プレキャスト部材や高炉スラグ等の高耐久性に配慮した構造へ更新する抜本的な対策が必要である。また、更新後も予防保全段階で適切な対処を行うことにより、ライフサイクルコストを縮減する必要がある。
②新たに判明した劣化メカニズムを踏まえた対策
初期段階で使用していた床版防水工は、早期に防水機能が損なわれ床版部への塩分侵入促進など、橋梁の劣化抑制が図られていないことが判明している。これら防水機能が不十分な橋梁においては、高性能床版防水工の施工や、床版取替等の対策が必要である。これにより、劣化因子の主要部材への侵入を抑制し、構造物の長寿命化を図ることが可能である。
③構造物の変状の的確かつ詳細な把握
構造物の維持管理においては、補修、更新いづれにしても、その変状の的確かつ詳細な把握が重要である。そのため、定期点検等の近接目視に加え、センシング技術を活用した連続変位観測やひび割れ検知等の新たな変状把握手法の導入が必要である。また、構造物の諸元、点検情報、補修履歴等のデータをモデル化し、一元管理に移行することで、より効率的な変状の把握が可能となる。
(3)新たに生じるリスクとその対策
①新たに生じるリスク
高速道路は、道路ネットワークを形成する上で最も重要であり、更新工事や補修によって、渋滞等の社会的影響を及ぼすことがリスクとして挙げられる。
②リスク対策
②―1広域迂回ルートの活用
高速道路ネットワークや主要地方道等の広域迂回ルートを活用することで、全面通行止を実施し工期短縮を図る。その際には、リアルタイム情報提供や迂回クーポン等の料金調整が重要である。
②―2柔軟な車線運用
上下車線を時間帯に応じて、仮設や移動式防護柵により柔軟に車線運用することで、工事中の最適な交通規制を実施する。その際には、HPやSNSを活用した事前周知や、わかりやすい標識、路面標示により、交通規制中の安全確保を適切に実施することが重要である。